COLUMN製品コラム
クリーンベンチとは?原理や用途・種類・適切な使い方・選び方を解説

クリーンベンチは、実験室や研究機関の研究環境において作業環境を一定の清浄度に保つために欠かせない設備です。ホコリや浮遊微生物などが実験対象に混入するのを防ぐため、特に微生物や細胞の培養、医薬品の調整など高い清浄レベルが求められる作業に広く用いられています。
この記事では、クリーンベンチの基本原理や種類、使い方、選び方について詳しく解説します。また、安全キャビネットやドラフトチャンバーとの違いも伝えるため、クリーンベンチの利用を考えている方はぜひ参考にしてください。
1. クリーンベンチとは
クリーンベンチとは、実験・研究の作業環境が一定の清浄度になるように管理された設備で、清浄作業台とも呼ばれます。作業対象物にホコリや浮遊微生物などが付着・混入するのを防ぐ、囲いが付いた実験台です。
高性能のHEPAフィルターを通した清浄空気で気流を作ることで、清浄度レベルが低い室内でも局所的に清浄度の高い環境が実現できます。多くの工場や研究室に導入されている垂直層流型のクリーンベンチは、前面に上下スライド式のシャッターが付いた形状が特徴です。
送風機と高性能フィルター、照明の基本的な設備に加え、必要に応じて水道・ガス・排気といった機能を備えているクリーンベンチもあります。殺菌灯を設置するなど、作業内容に合わせたカスタマイズも可能です。
1-1. クリーンベンチの構造
クリーンベンチの構造は、清浄な作業環境を維持するためにJIS B 9922などの規格に基づいて設計されています。装置は主に、送風機、高性能フィルター(HEPAまたはULPA)、作業空間、照明設備などで構成されており、それぞれが清浄性と安全性を確保する役割を担っています。
作業空間の壁面には、剥離や腐食が発生しにくい素材が用いられており、長期間の使用でも清浄度を損なわない構造です。また、ろ過されていない空気が作業エリアに流入しないよう、フィルターの取り付け部や本体接合部には高い気密性が求められます。さらに、フィルターは経年劣化によるエアロゾル漏れを防ぐ設計とされ、保守や交換が容易に行えるよう脱着性にも配慮されています。
加えて、装置は接地される構造であることが求められ、安全性の確保にも配慮されています。有害物質を扱う用途では、排気経路の確保や防爆構造への対応が必要となる場合もあり、使用目的に応じた仕様が選定される点も重要なポイントです。
1-2. クリーンベンチの原理・仕組み
クリーンベンチは、外気を装置内に取り込み、高性能フィルターでろ過した清浄空気を一定方向に送り続けることで、作業空間の清浄度を維持する装置です。内部では送風機によって空気が吸い込まれ、HEPAフィルターなどを通過することで微粒子や微生物が除去されます。その後、清浄化された空気が作業エリアへと供給される仕組みです。
クリーンベンチの作業空間は外部よりもわずかに圧力が高い「陽圧状態」に保たれており、外部から汚染物質が侵入しにくい環境となります。室内の清浄度が必ずしも高くない場合でも、局所的に無菌に近い作業環境を確保できる点が特徴です。
また、空気の流れには「垂直方向」と「水平方向」の2つの方式があり、それぞれ気流の向きが異なります。いずれも清浄空気を一定方向に流し続けることで、浮遊粒子の滞留を防ぎ、安定した作業環境を実現しています。
1-3. クリーンベンチと安全キャビネットの違い
クリーンベンチと似た実験用保護装置として挙げられるのが、安全キャビネットです。安全キャビネットは、バイオハザード対策用キャビネットとも呼ばれます。
クリーンベンチは、作業空間内を陽圧にして清浄環境を保ち、無菌状態で試料を扱うことを目的とした装置です。一方、安全キャビネットは装置内部を陰圧にして、実験作業者・環境・試料それぞれの相互汚染や試料間の相互汚染を防ぐことを目的としています。安全キャビネットは、感染性物質を使った実験・研究に適している点で、クリーンベンチとは異なります。
また、クリーンベンチはフィルターでろ過された空気が装置背面、または上部から作業面を通過して作業者方向に流れる仕組みです。安全キャビネットでは、庫内上部から作業空間に向かって発生させた気流が作業空間における試料間の相互汚染を防ぐとともに、グリルを経由して循環・排気されます。
1-4. クリーンベンチとドラフトチャンバーの違い
ドラフトチャンバーは、実験・研究で発生する有害ガスを排気し、薬品などを安全に扱うための換気装置です。局所排気装置として、労働安全衛生法で設置が義務付けられています。
ドラフトチャンバーには、クリーンベンチのようなHEPAフィルターが搭載されていません。発生したガスなどを処理するためのスクラバーを備えた構造が特徴で、排気ファンとダクト接続が必要です。
ドラフトチャンバーは前面開口部より室内の空気を取り込み、作業面・装置上部を経由して屋外に排出させることで、有害ガスから作業者を保護します。
2. クリーンベンチの種類
クリーンベンチには以下のように、さまざまな種類が存在します。
| 装置組み込み型 | 床置きの装置を組み込むことで、作業台を取り外せるタイプのクリーンベンチです。 |
| 乾燥型 | 赤外線ランプが搭載されており、作業空間を乾燥状態に保てます。 乾燥作業が必要な実験操作で活躍します。 |
| 無振動型 | 作業空間に振動が直接伝わらない構造のため、繊細な作業や測定を行うシーンでも活用可能です。 |
| ライトテーブル型 | 視認性アップを目的として、アクリルやガラスなどを組み合わせた構造の作業台面に、蛍光灯が組み込まれています。 |
| 給排水型 | 作業台の一部や全面が流し台になっており、正面に給水栓が備え付けられたクリーンベンチです。 |
| 排気型 | 作業台の一部や全面から排気可能なクリーンベンチです。 作業エリアの有害物質などを排出できます。 |
| 循環型 | 清浄空気をクリーンベンチ外に放出させずに循環させることで、作業環境の清潔を継続的に保ちます。 |
3. クリーンベンチの適切な使い方
クリーンベンチの使い方を誤ると、作業環境を清浄に保つ効果が得られず、コンタミネーションによって細胞培養などに失敗してしまう可能性も否定できません。クリーンベンチで無菌操作をするときの適切な使い方として、次の3つを解説します。
3-1. クリーンベンチの準備
クリーンベンチを使う前に、ベンチ内部の作業エリアを無菌状態にする準備が必要です。使用の1時間ほど前から殺菌用のUVランプを点灯しておきます。ただし、UVランプは人や細胞にとって害があるため、直視しないように注意が必要です。
UVランプを消灯後に、作業用ライトとファンのスイッチを入れて、ドアを20cmほど開けた状態で5分程度稼働させます。エタノールやベンザルコニウム塩化物液などの消毒剤をベンチ内全体に吹き掛け、紙ワイパーや滅菌ガーゼで拭き取ったらクリーンベンチの準備は完了です。
3-2. 実験者および使用器具の準備
実験者の皮膚や使用器具の表面にも菌が存在しています。無菌操作における汚染を防ぐために、それぞれ滅菌準備が必要です。
まず、実験者は作業前に爪を短く切り、手を石けんで洗って清潔な状態にしておきます。手洗い後にペーパータオルなどで水気をよく拭き取ったら、エタノールやベンザルコニウム塩化物液などの消毒剤で手指を消毒しましょう。さらに、クリーンベンチ内部に入れる肘の手前も同じく消毒します。
実験器具の滅菌方法には、主に以下のような種類があります。
- 高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)
- 乾熱滅菌
- アルコール滅菌
高圧蒸気滅菌と乾熱滅菌は、器具を滅菌袋に入れて滅菌する方法です。器具を滅菌袋に入れたままクリーンベンチ内に入れ、ベンチ内で開封を行います。アルコール滅菌は、実験器具の表面を消毒剤で拭く滅菌処理です。
3-3. 無菌操作のコツ
無菌操作では、以下のようなポイントを意識しましょう。
- 扉を開ける高さは25cmまでにする
- 試薬や培地が入った容器の開封は最小限にし、蓋を開けた状態の上で作業しない
- 実験中に話したり、実験者の近くを通ったりしない
- 作業を中断する際は容器の蓋を閉めて、手をゆっくりクリーンベンチから出す
さらに、試料間の感染を招く恐れがあるため、同時に複数の試料を持ち込む行為は避ける必要があります。培地や試薬も1種類の試料ごとに1組ずつ用意しましょう。
また、クリーンベンチのそばでガスバーナなどの熱源を使うと、上昇気流が起こって菌やホコリが浮遊します。作業場付近には実験に必要ない物を置かず、熱源になる道具も使わないように注意が必要です。
4. クリーンベンチの用途
クリーンベンチは、浮遊微生物やホコリなどの異物混入を避けたい作業で用いられます。特に、高い清浄レベルが求められる微生物や細胞の培養、医薬品の調整といった医薬分野の実験作業時に欠かせない装置です。
半導体・液晶をはじめとする精密機器や食品の製造の現場などでも使われており、幅広い分野で活躍しています。中には、作業エリアに囲いが存在しないオープン型のクリーンベンチもあり、作業効率を高める装置として活用されています。
5. クリーンベンチを選ぶポイント
クリーンベンチは用途や設置環境によって最適な仕様が異なり、性能や使い勝手にも大きく影響します。そのため、単に価格やサイズだけで判断するのではなく、作業内容や求める清浄度、設置条件などを踏まえて総合的に検討することが重要です。
ここでは、クリーンベンチを選ぶ際に押さえるべきポイントを紹介します。
5-1. 必要な清浄度の目安
クリーンベンチを選定する上で、特に重視すべきポイントは清浄度です。清浄度はISO規格(ISO 14644-1)によってクラス1〜9に分類されており、数値が小さいほど空気中の微粒子が少なく、より高い清浄環境を意味します。
一般的なクリーンベンチはISOクラス5(旧クラス100)に対応しているケースが多く、細胞培養や微生物実験など幅広い用途に対応可能です。ただし、半導体や精密機器分野のように、さらに高い清浄度が求められる場面も存在します。そのため、まずは作業内容を明確にし、必要な清浄度レベルを把握しておくことが重要です。
判断が難しい場合には、用途を具体的に整理した上でメーカーや販売代理店へ相談し、最適な機種を選定するとよいでしょう。
5-2. 層流方式の違い(垂直・水平)
クリーンベンチを選ぶ際には、気流の流れ方である「層流方式」の違いを理解しておくことが重要です。代表的な方式として「垂直層流方式」と「水平層流方式」があり、それぞれ特徴や適した用途が異なります。
垂直層流方式は、天井面から作業台に向かって空気が流れる構造で、作業エリア全体に均一に清浄空気を供給しやすい点が特徴です。上から下へと流れるため、異物が作業面に滞留しにくく、細胞培養や微生物操作など、清浄性を重視する用途に適しています。
一方、水平層流方式は背面から作業者方向へ空気が流れる構造で、作業面に直接清浄空気が届くため、操作性に優れている点がメリットです。ただし、手や器具が気流を遮ると清浄性に影響が出る可能性もあるため、作業手順には配慮が求められます。
どちらが優れているというわけではなく、求める清浄度や作業内容、操作性とのバランスを踏まえて選ぶことが重要です。
5-3. フィルターの種類(HEPA・ULPA)
クリーンベンチの性能を大きく左右する要素がフィルターです。多くの機種ではHEPAフィルターが採用されており、0.3μmの粒子を99.97%以上除去できる性能を備えています。
さらに高い清浄度が求められる場合には、ULPAフィルターを搭載したモデルを検討することも有効です。ULPAフィルターは0.15μm程度の微粒子に対して99.9995%以上の捕集効率を持ち、より厳しい清浄環境の構築に適しています。
ただし、フィルターの目が細かい分だけ圧力損失が大きくなり、交換頻度やランニングコストが増加する点には注意が必要です。過剰な性能を求めるのではなく、必要な清浄度とコストのバランスを考慮しながら選定する視点を持ちましょう。
5-4. 設置環境と設置スペース
クリーンベンチを選定する際は、本体サイズだけでなく設置場所や周辺環境まで含めて検討することが重要です。サイズが大きい製品もあるため、搬入経路や設置スペースに十分な余裕があるか事前に確認しましょう。
また、クリーンベンチは気流制御によって清浄環境を維持しているため、出入り口や窓付近など外気の影響を受けやすい場所は避け、周囲に適切な空間を確保する必要があります。
据置型は設置後の移動が難しいため、作業動線や電源位置、周辺設備との配置バランスも考慮しておくと安心です。さらに垂直層流方式の場合は本体高さが出やすく、フィルター交換時の作業スペースも必要となるため、天井高にも注意しましょう。
設置スペースが限られる場合には卓上型のクリーンベンチも有効な選択肢です。コンパクトで設置の自由度が高い一方、作業エリアは狭くなるため、用途に応じたサイズ選定が求められます。
5-5. 付加機能の有無
クリーンベンチには、作業効率や安全性を高めるためのさまざまな付加機能が用意されています。例えば、エアーカーテン機構は作業エリア内の気流を分画し、サンプル同士の相互汚染を防ぎながら複数作業の同時進行を可能にします。アームレストは手首や肘への負担を軽減し、長時間作業でも疲労を抑えつつ作業精度の維持に役立つ機能です。
また、風速低下を検知して警告する警報機能は、清浄環境の異常にいち早く気づくための重要な安全装置と言えます。さらに、UVランプのオフタイマー機能は照射時間の管理を容易にし、部材劣化の抑制にもつながります。
その他にも、ガス・給排水・排気設備などのオプションが用意されているため、作業内容に応じて必要な機能を取捨選択し、過不足のない構成を検討しましょう。
6. クリーンベンチでよくある質問
クリーンベンチは専門性の高い装置であるため、使用方法や管理方法、適切な用途について疑問を持つ方も少なくありません。正しく理解することで、安全性と作業精度の向上につながります。
ここでは、クリーンベンチに関するよくある質問を紹介します。
6-1. クリーンベンチで病原性のある微生物は扱えますか?
クリーンベンチは試料の清浄性を保つことを目的とした装置であり、作業者や周囲環境を保護する機能は備えていません。病原性のある微生物を扱う場合は、安全キャビネット(BSC)の使用が必要です。
6-2. HEPAフィルターの交換頻度はどれくらいですか?
HEPAフィルターの交換時期は使用状況や設置環境に左右されますが、一般的な目安は1〜3年程度です。風速測定や粒子カウンタによる清浄度測定を行い、性能低下が確認された場合は交換を検討しましょう。定期的な点検と記録管理を行うことで、適切なタイミングでの交換につながります。
6-3. クリーンベンチと安全キャビネットはどちらが高価ですか?
一般的には、安全キャビネットのほうがクリーンベンチより高価です。製品だけでなく作業者や環境も保護する構造を備えており、フィルターや気流制御が複雑な点が価格差の要因と言えます。
6-4. クリーンベンチは定期的に点検したほうがよいですか?
クリーンベンチは年1回を目安に定期点検を行うことが望ましいとされています。特に殺菌灯の使用によりシール材や樹脂部品が劣化しやすく、清浄性や安全性に影響を及ぼす可能性があります。性能を維持するためにも、状態確認と部品交換を計画的に実施しましょう。
6-5. 長期間使用していなかったクリーンベンチはそのまま使えますか?
長期間未使用でも、HEPAフィルターやシール材、ホース類は経年劣化が進行します。見た目に異常がなくても性能が低下している可能性があるため、再使用前には点検を行いましょう。
まとめ
クリーンベンチは、微生物やホコリの混入を防ぐために清浄な環境を提供する装置であり、主に医薬品や精密機器、食品製造などを行う工場や研究室で使用されています。HEPAフィルターを通した清浄空気で気流を作り出すことで、清浄度が低い環境でも局所的に高い清浄度を確保できるのが強みです。
クリーンベンチの使用にあたっては、作業エリアおよび作業者の滅菌が必須です。また、試料のコンタミネーションを防ぐため、複数の試料をクリーンベンチ内に持ち込まないようにしましょう。加えて、上昇気流によって微生物やホコリが浮遊し試料を汚染するのを防ぐため、作業場付近からは熱源を排除してください。
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